『国分寺・国立70sグラフィティ』

村上春樹さんのジャズ喫茶、ピーター・キャットを中心とした70年代のクロニクルまたはスラップスティック

春に似合うアルバム。私の一推しはこれ。『April in Paris』

 70年代当時の東京の冬というのは結構寒くて、雪もよく降った。なにせ原発が三基しかなくて発電に回る二倍という膨大な量の温排水が殆ど無かったわけだから当たり前だ。ところが2014のこの冬は一基も稼働していないせいか、はたまた地球がNASAの言うように太陽活動の低下によってか、恐らくその二つの相乗効果だろうが、厳冬の上に歴史的な豪雪に見舞われた。いつまで経っても信州の里山には残雪があり、春は来るのだろうかと心配したが、3月下旬になって一気に春めいた。こうなると信州の春は気ぜわしく忙しい。梅、杏、桜、山桜、桃、林檎と一気に咲き抜けていく。信州の春は短い。
               ◆
 国分寺ピーター・キャットの春というのは、やはり学生が休みの3月よりも、新学期が始まる4月。続々と帰郷していた学生たちが戻り、店に活気が復活する。先輩に連れられた初々しい新入生も来るようになる。ジャズ喫茶というとジャズオタクの学生やサラリーマンばかりという印象だが、国分寺ピーター・キャットは、女性客も多かった。武蔵美や津田塾の女子大生もたくさん来てくれたし、下は中学生からOL、有閑マダムまで、女性客は少なくなかった。
               ◆

 印象に残るのは二年目の1975年の春かもしれない。東風が吹く桜の花びらが舞い散る玉川上水を歩いて大学に通ったものだ。デートで、井の頭公園や代々木公園にも行った記憶が蘇る。国立の大学通りの桜も見事だった。
               ◆

f:id:moriIQ84:20160321114052j:plain


 私が所蔵するアルバムから、春にまつわる好きなアルバムと曲を集めてみた。秋に比べると意外に少ないのに驚いた。
April in Parisカウント・ベイシー・オーケストラ。春に似合うアルバム。私の一推しは、やはりこれ。パリの凱旋門をバックに、ご婦人に赤い花束を渡すベイシーがジャケット。愛溢れる名演奏。エンディングテーマは、One more time! Let’s try! One more ONCE! と3回繰り返されるが、ライブでは興に乗ると5回も繰り返したそうだ。
『merrill at MIDNIGHT』ヘレン・メリルの「SOFT AS SPRING」ニューヨークのため息と言われる彼女の繊細なハスキーボイスがたまらない。


『A DAY IN THE LIFE』ウェス・モンゴメリーの「WINDY」爽やかに吹き抜けていく春風のような心地良い演奏。70年代のショッピングセンターでよく流れていた記憶がある。


『O MUNDO MAR AVILHOSO』アントニオ・カルロス・ジョビンの「CHOVENDO NA ROSEIRA」薔薇に降る雨という少しせつない春の歌。あなたは誰のものでもない……と歌う。

www.youtube.comSONNY CLARK TRIO』ソニー・クラークの「I'LL REMENBER APRIL」必ず思い出すだろう煌めく陽光に包まれたあの4月。色々なジャズメンが演奏しているが、彼のブルーノート盤がやはり光る。

www.youtube.com『THE CONCERT IN CENTRAL PARK』サイモン・アンド・ガーファンクルの一枚目B面一曲目の「APRIL COME SHE WILL(4月になれば彼女は)」 ジャズナンバーではないのだけれど、大好きな所蔵盤の大好きな一曲。恋の訪れと、やがて来る別れを季節の移ろいに乗せて歌ったものだが、韻を踏んだ詞が物哀しくも美しい。1981年ニューヨーク、セントラルパークでの演奏が、30年後にYoutubeで観られるとは、誰が想像しただろうか。

www.youtube.com               ◆
【信州の里山】五一山脈踏破 Goichi Mountain range in Nagano 『April in Paris』カウント・ベイシー・オーケストラのゴージャス且つダイナミックな演奏がBGM。坂城町の坂城神社から村上義清の葛尾城跡経由で五里ケ峯へ。 五一山脈を千曲市の一重山まで新緑と花の尾根を縦走したスライドショー。ベイシーサウンドは、なぜか信州の春の風景とよく合うような気がする。
*Yutubeでは、ハイビジョンでご覧いただけます

               ◆
 ほかにも春にまつわる名曲や名演奏はある。
Joe Pass - Joy Spring」ジャズギターというのは、春向きかもしれない。安心して聴ける演奏だ。もちろんクリフォード・ブラウンの「Joy Spring」も最高だけれども。


Spring Will Be a Little Late This Year - Ella Fitzgerald Jazz Collectionエラ・フィッツジェラルドの艶のある声がなんとも心地いい。
Chris Connor - Spring Is Here」クリス・コナーのハスキーな歌声が沁みる。
Bill Evans Trio - Spring Is Here」同じ曲だが、ビル・エヴァンスのピアノは、本当に心が癒やされる。
               ◆
 春は新生活が始まり希望の季節だが、同時に精神が不安定になり易い。寒暖の差が激しく自律神経が乱れるからだ。春眠暁を覚えずとか5月病とかいうが、気候変動の激しい春から初夏にかけては、体だけでなく心も疲れるものだ。その上、日本では春に新学期や入社、転居などを迎えるため、余計に精神のバランスを崩しやすい。そういう知識を持って、臨むといい。昔の人は、それを知っていて、「木の芽時」といって備えたものだ。そういう季節なんだと思えば、心も体も少しは軽くなる。肉や炭水化物の量を減らし、野菜や発酵食品を多めに摂る。砂糖や乳製品もできるだけ控えた方がいい。心も体もデトックスが必要な季節。蕗などの苦い山菜や抗酸化作用のつよいコシアブラなどの山菜やノビルやヨモギなどの野草を食べるのもいい。それが野生動物や先人の知恵だ。もちろん放射能汚 染されていないものを。
               ◆
 春は恋の季節でもあるが、そもそも恋というのは、精神のホルモンバランスが崩れること。快楽を司るドーパミンの大量分泌が恋愛を支配する。しかし、支配するのは恋愛だけではない。想像力や創造力も喚起する。脳は訓練次第で、経験からやりがいという報酬を得てドーパミンを放出し、それを糧とすることができることが既に分かっている。自然界はうまく出来ていると思うべきだろう。按ずるべからず。恋せよ乙女。あっ、熟年熟女もね。私もです。精進しましょう。
Falling in love with love 恋に恋してHelen Merrill with Quincy Jones Septet。
ニューヨークのため息を最後に。


               ◆
 今日はここまで。次は秋に似合うジャズ。ピーター・キャットでかかっていたあの名曲